うさぎトレポネーマ
(うさぎ梅毒、うさぎスピロヘータとも言う)


うさぎトレポネーマ 
 トレポネーマは、スピロヘータ、うさぎ梅毒とも呼ばれるTreponema paraluiscuniculi(グラム陰性)による感染症です。
 人には感染せず、うさぎ同士で感染が広がる菌です。
 粘膜の接触や母子感染(鼻先での接触、交尾)によって感染します。多くのうさぎがキャリアと言われていますが、免疫の低下やストレス、寒さ、24時間換気システムによる通気付近へのケージの設置、などが発症の引き金になります。
 性病を連想させる名前から、恐怖の病のイメージがありますが、身近な病気であると共に、治療の出来る感染症です。
 早期発見のサインや発症の兆候についての知識を持つことで、トレポネーマ感染の疑いのあるうさぎは容易に見つけ出せます。そのほとんどは、一見すると健康に過ごしている場合が多く、よく観察すると陰部の炎症によって尿やけを起こしていたり、炎症によってイライラしたような様子がみられる程度です。
 しかし、中には鼻水がひどく、長期間治療をしても改善が見られず、体力が落ちていたり、重度の皮膚炎にまで進行しているケースもあります。
 いずれの場合も、トレポネーマを疑ってクロラムフェニコール(以下クロマイ)を処方してもらうと数日で改善がみられます。
  しかし、クロマイ治療により症状はすぐに改善されますが、トレポネーマを完治させる治療ではないという認識をもつ必要があります。クロマイ治療で治ったと思って繁殖に使ってしまうと感染を拡大させる可能性があり、ショップやブリーダーは感染を広げないためにも正しい知識と感染予防策が必須となります。
  一般飼い主とブリーダー、多くの協力のもとに、うさぎ達の変化を見逃さずに、感染初期から発症、治療の経過を定期的に観察し、それらのデータを全て画像とともに資料として残してきました。
 2011年秋ごろから、トレポネーマの多発を感じ、これまでの情報と知識を公開することにしました。これ以上感染を広げないためにも、まずは自分のうさぎは大丈夫か?という意識を持ち、感染を広げないための知識として役立てて下さい。
 症状
  トレポネーマの症状には多くのパターンがあります。下記のいずれか一つだけ症状がある場合もあれば、複数の組み合わせだったり、すべての症状がある場合、さらには外見からは分らない症状まで様々です。
 うさんぽ(オフ会)など、接触感染の場合は鼻周囲から発症する事が多く、母子感染の場合は陰部に発症するケースが多いようです。

1.くしゃみ、鼻水
2.鼻や口の周りの皮膚の変化
3.陰部からの滲出液や痂皮
4.肛門の浮腫や滲出液、痂皮
5.肛門内部の炎症
まれに
・まぶたの浮腫や違和感
・体毛の激しい脱毛や痂皮

皮膚の変化の様子
 毛が薄くなる→小さな吹き出物が出来る→ニキビのように角栓が出来る→滲出液が出る→痂皮が出来る

粘膜の変化の様子
 ■Buck(雄)ほとんど症状が現れない中での研究結果(だから感染が広がるのでしょう)
  軽度の場合・・・包皮と肛門(またはいずれか)がふやけたような感じ
  進行の場合・・・滲出液→潰瘍→痂皮

 ■Doe(雌)症状が現れやすく発見しやすい
  陰部からの滲出液→潰瘍→痂皮

* 用語解説
  ・滲出液(しんしゅつえき)→分泌物
  ・痂皮(かひ)→かさぶた
  ・角栓(かくせん)→つらら状の分泌物の塊
感染の広がり 
 感染しても無症状の状態をキャリアといいます。特に、Buck(雄)は感染してもほとんど症状が現れない場合が多く、ブリーダーでも見極めることが難しいため、感染を断ち切る事が難しい要因です。

トレポネーマ検査で強い陽性反応を示し、交配したすべてのDoe(雌)の感染源となったBuck(雄)  
  包皮と肛門がふやけたような外見が特徴。本来健康なBuck(雄)の包皮は薄い。同じように感染源になり検査で陽性反応が出たBuck(雄)達にも、同様の兆候が見られる。


 一般に症状が現れる事を「発症」と言いますが、キャリアの状態であっても、発症した状態であっても感染源になります。
 感染が広がる大きな原因は、キャリアのうさぎがうさんぽ(オフ会)に参加したり、繁殖される事。
また、発症して治療後、症状が治まると病気が治ったと思い、他のうさぎと接触の機会を持ってしまう事が大きな原因です。
繰り返しになりますが、治療しても保菌している可能性が高く、感染源になるという意識が絶対必須です。

■感染減になりうるのは?
キャリアのうさぎ→発症(症状なし)していなくても菌を持っているので感染源になります。
            特に雄は症状が現れない場合が多いので注意が必要です。
発症しているうさぎ→感染力が強いので、隔離が必要
投薬治療後のうさぎ→クロマイによる治療により症状は改善しますが、再発の可能性も高く
              完治は保障されません。感染源になりえます。

■ラビトリーでの感染の広がり
 1頭のBuck(雄)に対して、数頭のDoe(雌)を交配する場合が多いため、もしBuck(雄)がキャリアならあっという間に感染が広がります。また、交配前後には陰部のチェックをすると思われますが、素手で数頭のチェックをする事で、交尾感染以外にも、指や爪に付着した粘液から多品種にまで感染を広げる可能性があります。
予防
  感染しているうさぎは感染源になるため、他のうさぎとの接触をしないに尽きます。
症状が出ているうさぎは、より感染力が強いと言われており、すぐに治療を開始する必要があります。
 多頭飼育の場合、隔離するのが望ましく、鼻先や口元、陰部を触れた手と指、爪の中も十分な洗浄をしないと、感染が拡大します。
 オスには症状がみられない場合が多いため、感染しているかどうかも分りません。むやみにうさんぽ(オフ会)などで、鼻先での接触をさせたり、動物病院でうさぎ同士を近づけたり、鼻先を含め、粘膜に触れた手で他のうさぎを触らない配慮が必要です。ショップやブリーダーはそのような情報を一般飼い主に向けて指導していく事も大切です。

 免疫の低下やストレス、急な寒さや、体調の不安定などがきっかけとなり、突然発症する場合が多く、発症した時が病気の始まりではなく、感染した時が病気の始まりという意識を持つ必要があります。
「うつされたくない」と思う前に、自分のうさぎも感染源になりうる意識が大切です。

ブリーダーに出来る予防策
・ヘルスチェック
・抗体検査
・発症したうさぎの治療と隔離
・キャリアと分かったうさぎの治療

 ラビトリーのうさぎのヘルスチェックをすることから始めます。まずは陰部チェック。健康な状態と比べて、ふやけた感じや滲出液、潰瘍などが出来ていないか、1頭ずつチェックをしていきます。疑わしいうさぎ達を認識します。
 その上で、抗体検査を実施出来れば、より確実に把握する事が出来ます。抗体検査は、トレポネーマに感染すると生産されるカルジオリピンに対する抗体を測定するもので、感染後2〜4週で陽性反応を調べられると言われています。
 しかし、あきらかな発症をしていても陰性と出てしまう場合、トレポネーマ以外の感染症でも陽性と出てしまう場合があるため、参考程度の検査となります。それでも、陽性反応が出るうさぎがいれば、トレポネーマ感染もしくはその他の菌に感染している事が分かるため、繁殖するうさぎの選別には役立てることができます。
 多くのうさぎがキャリアと言われているため、もし陽性反応が出たうさぎが、何ら症状も示さず健康に見え、過去にも良い親うさぎであった場合。また、生まれた子供達も健康的であった場合、ブリードアウトするか、治療をしてからブリードに復帰させるかは、ブリーダーの自己責任となります。
 逆に、抗体検査の結果に関わらず、見た目にあきらかな発症がある場合、どの治療薬で症状か改善されたかによって確定診断されます。トレポネーマ感染だった場合、ニューキノロン系抗菌剤(バイトリルなど)では改善が見られず、クロラムフェニコール(クロマイ)ですぐに症状の改善が見られれば、トレポネーマだろうという事になります。

・ヘルスチェック時の注意点
  陰部を触ったときに感染源になる粘液が指のささくれや爪に付着し、感染源になります。
トレポネーマに限らず、あらゆる感染症予防の為に、ヘルスチェック(特に粘膜に触れる時には)1頭ごとにゴム手袋をはめるか、1頭ごとに手、爪洗い、除菌の徹底をする必要があります。
 爪切り、その他のケアを実施している場合、自分が販売したうさぎであっても、うさんぽ(オフ会)によって感染している可能性も否定できない為、上記と同じ予防が必要です。
 バッティングケアを実施している場合、口腔粘膜が付着した器具を使いまわす事は危険で、その都度消毒が必要です。

 ラビトリー内での感染予防と、外からの感染予防を続けること。
また、新たに迎えたうさぎのヘルスチェックと検査を続けることが出来れば、将来的にトレポネーマは衰退するでしょう。

治療
 治療についての情報は、ブリーダー、一般飼い主が、それぞれに通っている病院で治療した経緯を報告していただいたものなので、あくまでも参考程度にして下さい。必ず獣医師の診断と指示に従い治療を行ってください。

一般飼い主向けの治療
●クロマイの治療
 症状が治まったら投薬終了の場合→再発率高い
 投薬後、症状が治まってからさらに2週間投与を継続→再発率低い

ブリーダー、ショップの治療の選択
発症したうさぎ
 感染力が強いことと、免疫の低下が起きているから発症したと捉えることが出来ます。ペニシリン治療による完治は保障されない為ブリードアウトするのが望ましいでしょう。後はブリーダーの自己責任となります。
検査によってキャリアと分かった場合
 健康に過ごすうさぎが検査によってキャリアと分かった場合もブリードアウトするのが理想でしょう。しかし、キャリアのうさぎをペニシリン治療後に何世代かに渡って繁殖をし、誰も発症していないというケースもあります。 検査せず、気付かないまま繁殖するよりもは、治療をした上で繁殖することは改善に繋がるかもしれません。
 また、キャリアと分かりペニシリン治療後にブリードアウトしたうさぎ達の発症も、今のところ報告は受けていません。ペニシリン治療は、完治は保障されないものの、発症率、再発率は極めて低いのではないかと推測されますが、治療後のうさぎ達と、繁殖に関わったうさぎ達の生涯を見届けるまで発症と再発がないとは言い切れないでしょう。

 いずれにしても、治療後も感染したうさぎを飼養するにあたり、これ以上の感染拡大を食い止める為に、クロマイよりも完治率が高く、再発率が低いと言われるペニシリン治療を選択することがブリーダーにとっては有益に思えます。
 トレポネーマは一般飼い主にとっては治療すればすぐに良くなる病気ですが、ショップ、ブリーダーにとっては深刻な病気です。なぜなら、感染力が強く、母子感染を予防する責任があると同時に、不妊になるという報告もあります。長い目で見た純血種の繁栄のためにも、大切に築きあげた血統を守るためにも根絶を目指すのが理想です。

●ペニシリン治療
 万一の死亡のリスクがあり、症例数も少ない為、一般飼い主には進められません。
治療後、症状はすぐに改善し、再発の可能性が極めて低いと言われていますが、完治の保証はされていません。
JRPAが把握するペニシリン治療をしたうさぎは40頭以上で、コレスチラミンの同時投薬をした場合の死亡例はありません。(大人のうさぎのみ)。しかし、ペニシリンのみの注射をした場合の死亡例は多く存在するようです。
 情報がなかなか公開されない病気のため、発症しても治療法を見つけれないケースが多いため、知りうる情報を公開します。

 プロカインペニシリンGなどペニシリンの注射 0.15ml/kg (7〜10日おきに3回注射)
 同時に
 コレスチラミン 0.6g/kgをペニシリン注射の前後30分に投薬 (0.1gに対して0.8ccの水で溶く)

 コレスチラミンはペニシリンによる重度の副作用であるクロストリジウムなどの増殖を阻止し、腸内環境を守ります。
 しかし、コレスチラミンにも便秘になるという副作用があります。いくつかの文献に数回の投薬と記載されていますが、1回の投薬でペニシリンの副作用を予防できることを実証済みです。

うさぎ梅毒の検査について 
 血液検査で抗体反応を見るのが一般的ですが、感染&発症していても陰性と出る場合があり、確定診断が難しい検査です。それでも、陽性反応が出た場合は感染を確定できます。まれにトレポネーマ以外の感染でも陽性反応が出る場合があるそうですが、何かに感染していることは間違いないので繁殖の選別に繋がります。
 トレポネーマの症状はパスツレラ感染に似たくしゃみや鼻水といった症状が目立つ場合があり、陰部の炎症があっても、バイトリルなどの抗生物質が処方されることがありますが症状は改善されません。それが、クロマイの投薬を始めたとたんに数日で症状が改善された場合などはトレポネーマと診断されます。
 症状と何の薬が効いたかという両方で診断できる場合と、症状が出ていなくても血液検査で陽性反応が出ることで発覚出来る場合があり、注意深いヘルスチェックと、確定診断ではなくても血液検査を実施するというダブルの予防が理想です。。

梅毒脂質抗体検査(カルジオリピン抗体検査)RPRカード法
 定性検査→トレポネーマ感染のスクリーニング(トレポネーマ菌に対する抗体があるかを把握する検査方法)
 定量検査→感染、治療後、病状の把握のために用いられる検査方法(抗体の増減を把握する検査方法)


 うさぎトレポネーマ症例写真 
正常なBuck(雄)
正常なBuck(雄)の陰部
包皮が薄く艶やかで、ツルッとしている。
肛門はいきんだ時も内部は綺麗 
感染源になったBuck(雄)
うさぎトレポネーマ  うさぎトレポネーマ
  あるラビトリーで感染源となった雄。
交配した雌が全員発症した事によって、検査をし
この雄が感染源と特定された。
健康な雄との唯一の違いは、画像のように
包皮と肛門がふやけたような状態であったこと。
上の正常な雄と比べて下さい。
 肛門を拡大すると、かすかに赤みがあり潤っている。
正常な肛門は潤った感じはみられない。

この雄によって感染した雌の症例を下に紹介して
います。雄に比べ、雌の症状が重い事が分ります。
 症状が表れているBuck(雄)
うさぎトレポネーマ
  交配経験のあるホーランド Buck

 くしゃみがひどく、抗生剤の治療で改善が見られず相談を受け、ヘルスチェックにより陰部の症状にも気付いたケース。
包皮はもよもよっとふやけた感じが激しい。

 過去にBreed Buckだった為、出身地にも連絡するよう
伝え、治療をスタート。
よく観察すると、包皮はただれている部分があり、
肛門内部は赤く炎症を起こし、一部潰瘍も出来ている。 

肛門内部を確認するときには
前歯を見る時のように優しく指を下に滑らす事で
容易に確認する事が出来る。

チェックしなければ気付けないサイン。

正常なDoe(雌)
 うさぎトレポネーマ   正常な雌の陰部

肛門はいきんだ時も内部は綺麗 
  発症しているDoe(雌)
 うさぎトレポネーマ
初期症状のDoe(雌)

 上で紹介した雄との交配によって感染した雌。
尿やけかと思うようなクリーム色の滲出液で
陰部と肛門周辺が汚れている。
数日後、右の写真のような症状に進行。

ペニシリン治療で改善。

 症状が進行しているDoe(雌)

同じく、上で紹介した雄との交配によって
感染が分かった雌。
 すでに浸出液はほとんど見られず、潰瘍とかさぶたで痛々しい状況に進行している。

 クロマイの投薬で翌日から劇的に改善。
しかし、クロマイが体質に合わずうっ滞になるため
長期投薬を断念し、ペニシリン治療に変更し改善。 
  一般飼い主に多く見られる症例
うさぎトレポネーマ うさんぽ会で
接触感染によって発症した症例

鼻周辺につららのように角栓が出来る
くしゃみや鼻水が出る場合もあれば、口唇周辺にも広がる場合もある。 

ラビトリーでは母子感染、交尾感染により感染が拡大するため、ほとんどの場合陰部に症状が見られるのに対し、一般飼い主の健康だったうさぎの場合は、うさんぽなどオフ会によって感染するため、鼻周辺から感染し、盲腸フンを食べる時に陰部に鼻がつくことから後になって陰部に感染が広がるのが特徴的です。


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